顕微鏡 第48巻▶第3号 2013
■講座

正帯電金ナノ粒子標識法による鞭毛・線毛・細胞突起の大気圧走査電子顕微鏡観察

西山英利,寺本華奈江,須賀三雄a,b,佐藤主税

日本電子(株)SM事業ユニット
日本電子(株)開発基盤技術センター
産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門

要旨:細菌や培養細胞の光学顕微鏡観察には分解能の限界があり,ナノメートルオーダーの細菌の鞭毛・線毛や,真核生物細胞のフィロポディアの形状観察は容易ではない.このような繊細な構造を電子顕微鏡で観察するには,脱水や蒸着等の繁雑な前処理が必要であり,これによって本来の形状が失われる場合もある.本研究では細胞表面が負帯電していることを利用して,正帯電金ナノ粒子を細胞に吸着させた後,金増感を行い水溶液中で大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)観察を試みたところ,サルモネラ菌のらせん状の鞭毛,大腸菌の線毛,COS7細胞のフィロポディアを明確に観察することができた.観察に必要な前処理は水溶液を入れ替えるだけの簡単な操作であり,1時間ほどで完了可能であった.本稿で紹介した技術は細胞本来の微細な形状を容易に観察することができるため,生物分野に広く応用が期待される.

キーワード:大気圧,走査電子顕微鏡,鞭毛,線毛,細胞

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