公益社団法人日本顕微鏡学会 第76回学術講演会

 

市民公開講座

場所:大阪国際交流センター 2階小ホール

日時:2020年5月24日(日) 13:00~ 14:30

応募人数:先着順で150名です。

はじめに

 皆さんは、「宇宙ってどんな形?どのくらい広いの?その先はどうなっているの?」とか、「私たち人間はいつどこから、どのようにして生まれてきたの?」といった素朴な疑問を持ったことがあるのではないでしょうか?実は科学が発達した今でもわからないことだらけなのですが、世界の研究者がこのような素朴な疑問を、様々な方法で少しずつ証拠を積み重ねながら解明していく努力を日夜続けています。

 皆さんは、小惑星探査機「はやぶさ」が、数々な困難を乗り越えて小惑星「イトカワ」から貴重な微粒子を持ち帰ったことを知っていると思います。また、「はやぶさ」に引き続き、「はやぶさ2」が、今度は小惑星「リュウグウ」にタッチダウンすることに成功し、2020年の暮れには、貴重な試料を地球に持ち帰ってくれると世界の研究者が大いに期待しています。なぜ期待するかというと、持ち帰った試料を詳しく調べると、太陽系の起源や生命の起源に迫れるかも知れないからです。

 そこで、そんな難問を解明するために長年努力を続けてこられたお二人の先生をお招きし、「小惑星探査と顕微鏡の世界 ―太陽系と生命の起源に迫る―」というテーマで市民公開講座を開くことにしました。皆さんに太陽系と生命の起源を探る壮大な物語に想いを馳せて頂けたら大変うれしく思います。


講演概要と講師紹介

𡈽山 明 先生

講師:𡈽山 明 先生

立命館大学総合科学技術研究機構 客員教授
中国科学院広州地球化学研究所 教授

「はやぶさ」から「はやぶさ2」サンプルへ〜3次元X線顕微鏡(X線ナノCT)で迫る

 小惑星探査機「はやぶさ」は2003年に打ち上げられ、2010年に「イトカワ」からサンプルを地球に持ち帰りました。2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」は2018年に「リュウグウ」に到着、2020年12月に地球帰還予定です。
 宇宙探査機で天体からサンプルを採取して地球に持ち帰る計画を、サンプルリターン計画と言いますが、その意義とは何でしょうか?「はやぶさ」サンプルの分析ではどのようなことがわかったのでしょうか?そして、「はやぶさ2」サンプル分析ではどのようなことが期待されるのでしょうか?
 「はやぶさ」サンプル分析チームのリーダーであった講演者は、サンプル微粒子のX線ナノCT分析を行いました。X線ナノCTは非破壊の3次元X線顕微鏡法であり、その他の顕微分析と組み合わせることにより、多くの情報を得ることができます。講演では、「はやぶさ」「はやぶさ2」計画の概要とともに、X線ナノCTによる分析についても紹介します。

図
図の説明

X線ナノCTにより撮影された「はやぶさ」粒子のスライス像
(Tsuchiyama et al., 2013, Geochimica et Cosmochimica Acta, 116: 5-6より)。

DET法(dual-energy tomography)と呼ばれる手法を用いると、サンプルに含まれる鉱物の種類を同定できるが、このようにして求めた鉱物を色別に示したもの。はやぶさサンプル初期分析では、このようにして非破壊で求めた鉱物の3次元分布を元に、その後の様々な破壊分析を効率よく行うことができた。

𡈽山先生のプロフィール

 京都市生まれ、高校まで京都で過ごしました。東北大学理学部に入学、理学研究科(大学院)の修士課程まで、仙台で学生生活を送り、「鉱物学」を学びました。指導教授の”Seeing is believing”という言葉を今でもよく覚えています。小惑星探査もまさしく、”Seeing is believing”ですね。東京大学理学系研究科の博士課程に入学、ここで隕石と出会い、隕石に含まれる物質の再現実験を行いました。大学院修了後は、ポスドクとして、アメリカ合衆国航空宇宙局(NASA)、オレゴン大学地質学教室で研究生活を送りました。
 京都大学理学部に助手として採用され、その後大阪大学教養部・理学部・理学研究科で、講師・助教授・教授として教育や研究に携わりました。この間、大型放射光施設であるSPring-8でX線CTによる地球外物質の3次元構造の研究を始め、また「はやぶさ」サンプル分析に携わりました。また、テレビのクイズ番組「アタック25」で優勝し、エーゲ海クルーズに行ったのは自慢の一つです。その後、京都大学理学研究科に異動、2019年春に定年退職し、現在は立命館大学と中国科学院広州地球化学研究所でお世話になっています。
 太陽系を作った固体物質とはどのようなものか、どのようにして作られ、どのように進化したかを解明したいと思い、実験室での再現やX線CTによる3次元構造分析により取り組んできました。とくに最近は、X線CTと電子顕微鏡を組み合わせたマルチスケール3次元構造分析から、鉱物(石の成分としての無機物)だけでなく、氷や有機物を含めた3次元構造の研究を進めています。さらに、この手法を用いて「はやぶさ2」のサンプル分析を行うべく、現在準備を進めています。
 これまでに、いろいろな場所で、いろいろな方に出会い、いろいろな経験をしてきました。”A rolling stone gathers no moth”という諺がありますが(いい意味にも悪い意味にも使われます)、これからも転がりながらいろいろ「おもろいこと」ができたらいいな、またそれを発信することによって、少しでも社会に貢献できればいいなと思っています。


野口 高明 先生

講師:野口 高明 先生

九州大学基幹教育院 教授

透過型電子顕微鏡で調べる「はやぶさ」と「はやぶさ2」サンプル

 小惑星探査機「はやぶさ」の持ち帰った試料は,私も班員であった「はやぶさ」サンプル分析チームによって最初に分析が行われました。小惑星イトカワは大気のない天体であり,その表面は,太陽風とよばれる太陽からやってくるプラズマ(正負の荷電粒子からなる気体)の流れ,太陽表面の爆発によってもたらされるエネルギーの高い荷電粒子,さらには微小な隕石の衝突に曝されています。それらによってどのような変化が生じているかを調べるのが私の担当でした。その後の研究もあわせて,どのようなことが分かったかをお話ししたいと思います。また,「はやぶさ2」サンプル分析では,私は特に小さな試料を分析する班の班長です。私たちの班ではどのようなことがわかると期待されるのかについてもお話ししたいと思います。

図
図の説明

透過電子顕微鏡で撮影された「はやぶさ」粒子表面付近の断面像
(Noguchi et al., 2014, Meteoritics and Planetary Science, 49: 188-214より)。

生物試料の透過電子顕微鏡観察によく用いられる超薄切片法と呼ばれる手法でも,「はやぶさ」試料のような鉱物の透過電子顕微鏡観察用の試料を作ることができます。この方法では,集束イオンビーム法での試料作成よりも,試料の最表面の微細な構造が保持されます。「はやぶさ」粒子の最表面の約50ナノメートルほどがそれより深いところとは組織が異なることが分かります。この組織の違う部分の表面近くには,50ナノメートル×20ナノメートルほどの隙間のようなものが見られます。これは立体的には堅焼きせんべいの膨らみのような構造なのです。こういう不思議な組織がどうできたかということも話をしたいと思います。

野口先生のプロフィール

 東京に生まれ,大学院修了まで東京で過ごしました。東京大学に入学し,学部・大学院(修士課程と博士課程)と学生生活を送りました。大学院修了後に愛媛大学で日本学術振興会特別研究員をしている間に透過電子顕微鏡の使用について,私を引き受けて下さった先生にご指導していただきました。以来,透過電子顕微鏡が私の主な研究手段になりました。茨城大学に採用後,6年ほど経った時に,宇宙研(現JAXA)の方から,「これからは小惑星探査が行われ,試料が地球に持ち帰られる時代が来ます。持ち帰られる試料はとても小さいので,それらを自在に研究できる技術があれば,小惑星試料を研究できますよ」と言われて,微小な地球外物質である宇宙塵の透過電子顕微鏡を使った研究を始めました。この微小試料の研究を行っていたおかげで「はやぶさ」サンプルの分析どころか,JAXAで「はやぶさ」が地球に持ち帰った容器を空けて試料を探すところから携わることができました。
 上記のように,宇宙塵の研究を探査機回収試料の分析に関わるための手段のようにして始めました。しかし,それ自体が,太陽系を作った固体物質とはどのようなものかを解明するにとても重要なものであることが認識できました。そのため,宇宙塵は今日でも私の重要な研究対象になっています。また,微小地球外物質の透過電子顕微鏡を使った研究の専門家になったおかげで,探査機で人類が地球に持ち帰った全ての種類の試料を自ら加工し透過電子顕微鏡で分析する機会に恵まれました。「はやぶさ2」のサンプル分析でも微小試料を分析する班の班長として,現在準備を進めています。こういう研究の面白さを若い人たちに少しでも伝えることで,次世代につなげていけたらいいと思います。